ギッチリギチンギチンに締まる最強の留め加工『車知留』をやってみた

はじめに

今回は何かを作ったわけではなく、単に仕口の一つである車知留に挑戦しました。これでうまくいけば、薪ストーブのハースゲートも車知留版で一新したいと思います。ハースゲートを何度も開いたり持ち上げたりするとだんだん壊れてきちゃうんですよねぇ。ん?金物とビス止めにすればいいって? いやいや、この家のシンボルともいえる薪ストーブのものですから、木組みだけの留め加工にこだわりたいんです。

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車知留って何だ?

加工工程を説明する前に、そもそも留め加工とは、車知とはというところを説明したいと思います。

留め加工というのは、45°に切った材同士を突き合わせて木口が見えないように90°に付き合わせることです。木口の見えない加工なら90°でなくても留めというのですが、世の中の留め加工の9割9分は90°になるでしょう。※ちなみにウチの玄関の上がり框は例外にあたる非90°の留め加工になっています。

というわけで、完成図になりますがこれが車知留です。

車知というのは車知栓のことです。長方形または平行四辺形をしていて、斜めに差し込む栓のことを車知栓と言います。つまり、車知留というのは、車知栓をどうにかうまく使って留め加工が引き付け合う仕口ということになります。

角の内側に車知栓を差し込んで、玄翁で叩き入れてやると、栓が深く入るに従ってギッチリギチンギチンにかた~く締まっていきます。リフォームをやる何かのテレビ番組で、出演していた宮大工が、車知留こそ最強の留め加工だって言っていました。ちなみに右端のは加工に失敗した部分です。今回、既に2回目の挑戦となっています。

この車知留ですが、紹介しているメディアはYoutubeに2つ、ブログが2つだけ、木組み博物館には実物があって触れるのですが、たーが行ったときは丁度車知留が出張中で見られず・・・。技術大全みたいな分厚い仕口の本にも紹介されているのですが、作り手向けの紹介にはなっておらず。

ということで、資料がとても少なく、どう加工すれば留が締まるのか悩んだし、どのように寸法を決めればいいのかはいまだに最適解がわかりません。寸法は細かく書いていきますが、あまり当てにしないでください。

それでは加工していきますよ。

寸法

加工するのは45角の栂杭なので、一辺が45mmとなっています。これに以下のように罫書きました。

中央12.5mm部分は車知栓が通る溝(車知道)を掘るので、薄すぎると車知道部分が貧弱になりすぎてしまいます。一方、両端の10mm部分は留の45°を美しく見せる部分なので、割れない程度に薄くていいんだと思います。だから中央をより厚くすべきですね。この配分でいいのかわかりませんが、続けます。

凹部分の加工

まずは11mmのドリルで穴を空けます。奥側の墨線ギリギリを攻めた方が鑿での手加工が少なく、楽にはなりますが、失敗すると緩くなるので、自分の技術と相談して攻める点を決めます。

トリマーに35mm+α突き出したエンドミルを装着し、トリマーテーブルにセットして材を通します。これで深さが正確に出ました。ここはちょっと深めにした方が収まりが良いです。

12.7mmの角鑿ビットを垂直打ち込み治具にはめて玄翁でぶっ叩きます。結構大きな音がします。角鑿本体がないので仕方ないですね。これで幅が方向の加工ができました。12.5mmの墨線に対して12.7mmの角鑿ビットを打ち込むので0.2mm大きな溝になってしまいますが、少し余裕を持たせた方がいいでしょう。

角っちょと奥側を追い入れ鑿でちまちま刻んで凹部分ができました。

45°切り

たーはこの番号のとおり縦→横→斜めに切りましたが、とにかく斜めを後回しにすれば墨線を最後まで残すことができます。

ここは精密さが要求されるところなので、しっかり当て木をして、当て木の隣には留型スコヤをぴったり置いてから当て木をクランプで固定し、正確な45°や90°になるようにします。墨線上に当て木を載せただけでは、墨線の厚み分のズレが生じて精度が悪くなります。材を突き合わせたときに90°になりません。

また、画像のとおり精密さが要求されるところではアサリなし7寸目相当のライフソークラフト145を使っています。アサリがあると、当て木をしてもアサリで刃先が膨らんでいるので、垂直に切り落としているつもりでも切断面は当て木の反対方向へずれてしまいます。

ただし、アサリなし鋸は刃全体が材に挟まって擦れて押し引きが重たくなりやすい上、このライフソークラフト145はペラペラにペラいので、縦挽きしていると1cmくらい入ったところで動かなくなります。なので、縦挽きの場合は動かなくなったところで、同じ切り幅でアサリのある胴突鋸に切り替えます。また、ノコ道は十分に深くなっているので、当て木を外しても、まっすぐまっすぐ・・・と意識しながら切ればずれることはありません。

で、このように刻むことができました。

車知道を通す前に具合を見てみます

刻めたからといって、それがぴったり組み合うとは限りません。むしろ一発で決まることはないですね。組み合わせながら、何となくここをもうちょい削ればいいかな~と見たり触ったりしながら見当をつけ、ぴったり組み合うまで削って調整します。

いい感じですね。隙間なく嚙み合って、角度も90°になっています。

車知道を通す

最後に車知道を通します。三角形の窪みになるようにするのですが、先に車知道の入り口部分を刻んでおきます。入り口部分を刻んだ延長線上に三角形の窪みの端がきます。

この画像のように鑿で削る前に鋸で見当をつけておくとやりやすいです。とはいえ実際に車知栓を入れようとすると狭くてまっすぐ入らないので、最終的には画像の鋸ラインより多く削ることになります。

そしたら、凸部分に車知道のラインを改めて罫書きします。画像の奥側ですね。溝の中は定規が届かないので、鉛筆でフリーハンドで線を書きます。溝の外側は定規を当てて罫書き針で真っすぐ罫書きます(罫書き針なので写真では写りませんねぇ)。重要な点ですが、溝の外側の墨線は先細りになるよう、1mm中側に寄せてやります。どのくらい寄せればいいのかわかりませんでしたが、今回の寸法だと1mmでよかったようです。

そして、このような治具をこのように固定して角度切りします(右側を切ります)。今回、6mm:14mmの車知栓を使うことにしたので、傾ける角度は

tanθ = 6 / 14

となるθの値であり、θ ≒ 23°になります。画像は6:20の16°となっていますが、これは間違っていました。ちなみに20というのは、16を45°傾けるために1.414倍したケガキ線の寸法です。墨線も長方形になっていますが、これも間違っていて、「まとめ」で後述しているように平行四辺形になるのが正しいです。角度が間違ったままなので、車知道の角に微妙に隙間が空いた状態になりました。

削っては車知栓を通しを繰り返して、削り足りないところを削って、できました!

車知栓の長方形を対角線で半分にした、その半分が片方の材の車知道にぴったり収まるようにします。すると、それぞれの凸部分が車知栓によって相方の凹部分に押し込まれていって強く締まるという仕組みですね。

これで組み合わせて車知栓を叩き込んでいけば、最初の画像のようにギッチギチに締まります。もう一回画像載せます。

車知栓作り

順番が前後しましたが、車知栓も自作しなければなりません。

薪ストーブ用に木工所から楢の8mm厚くらいの端材を頂いていたので、それをこのような桟橋の上にトリマーを置いた装置に通して6mm厚に調整しました。どうしても端材の両端を削るときにブレてしまって深く削りすぎてしまうので、両端を利用するのは諦めます。

厚さが一定になったら車知栓の形に切ります。車知栓は6mm:14mmと書いていますが、叩き込んで締まらせるために、先端の長辺は13mm、後端の長辺は16mmとテーパー加工しています。長さは95mmです。

まとめ

完成後の考察としてわかったことを書いてみます。

車知留は最後の車知栓の叩き込みによって占めるものであり、凹凸を突き合わせた状態では少し緩いくらいのほうが上手くいきます。

だから、この画像の赤線のように凹部分の1は底に行くにしたがって奥側に食い込むように削り、凹部分の2は0.5mmくらい深めに削っておいて、凸部分の3は0.5mmくらい短めに切っておくと収まりが良いです。

長方形の車知栓を通すための入り口の墨線ですが、平行四辺形になります。45°傾け、さらにtanθ = 短辺 / 長辺 となるθの角度を傾けると、その切り口はこのように平行四辺形になるのです。

この画像は車知栓を差し込んだ状態で切ったところです。車知栓は平行四辺形で、車知道は間違って長方形に刻んでいるので、左下に微妙に隙間が空いています。

墨線の寸法は、短辺は車知栓と同じ(今回は6mm)、長辺は45°傾くので1.414倍(今回は14 × 1.414 = 20mm)になります。厳密には上記のθの分の傾きも計算しないと正確な寸法にならないのですが、差が小さすぎて誤差範囲ということで無視します。

というわけで、詳しい資料がないし、教えてくれる先生もいないので苦労しましたが、何とか形になりました。

木工DIY

Posted by たー